最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)48号 判決 1966年7月28日
上告人
白山ヒサ
右訴訟代理人
藤井滝夫
被上告人
本田技研工業株式会社
右代表者
本田宗一郎
右訴訟代理人
平山国松
(外三名)
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人藤井滝夫の上告理由第一点について。
原判決の確定したところによれば、被上告会社は昭和三四年一二月二日取締役会において、同会社の新株式発行につき、(一)新株式は昭和三五年二月二九日午後五時現在、株主名簿に記載されている株主に対し、その所有株式一株につき新株二株の割合で割り合てる。(二)新株式の申込期間は同年四月二五日より五月一〇日までとする、(三)払込期日は同年五月二一日とする、(四)申込証拠金は一株につき金五〇円とし、払込期日に払込金に充当する旨を決議したところ、上告人は右基準日以前の同年一月二八日その有する旧株式五〇〇株を訴外田中佐一に譲渡し、同訴外人は同年二月一六日被上告会社に株式名義書換の請求をしたけれども、被上告会社の過失により右書換は行われていなかつたので、右基準日当時も依然として上告人が五〇〇株の株主として記載されていたため、被上告会社は同年四月二五日上告人に一、〇〇〇株の新株割当の通知をなし、上告人は一、〇〇〇株の申込みをするとともに証拠金五〇、〇〇〇円の払込みをしたというのである。
思うに、正当の事由なくして株式の名義書換請求を拒絶した会社は、その書換のないことを理由としてその譲渡を否認し得ないのであり(大審院昭和三年七月六日判決、民集七巻五四六頁参照)、従つて、このような場合には、会社は株式譲受人を株主として取り扱うことを要し、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことを得ない。そして、この理は会社が過失により株式譲受人から名義書換請求があつたのにかかわらず、その書換をしなかつたときにおいても、同様であると解すべきである。
今この見地に立つて本件を見るに、訴外田中佐一は上告人から譲り受けた株式につき、前記基準日以前に適法に名義書換請求をしたのにかかわらず、被上告会社は過失によつてその書換をしなかつたというのであるから、右株式について名義書換がなされていないけれども、被上告会社は右訴外人を株主として取り扱うことを要し、譲渡人たる上告人を株主として取り扱い得ないことは明らかなところであり、従つて、右基準日に株主であつたことを前提として新株式の交付を求める上告人の本訴請求を排斥した原審の判断は正当である。所論引用の判例は株式譲受人が会社に対して名義書換請求をすることを失念したいわゆる失念株に関するものであつて、本件と事案を全く異にする。要するに、原判決に何等所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。
同第二点について。
被上告会社が上告人に対してなした新株割当通知は、引受権を有しない者に対してなされたものであり、また、上告人の被上告会社に対してなした新株引受申込は引受権を有しない者によつてなされたものであつて、いずれも無効である旨の原審の判断は、正当であり、その判断の過程に所論違法はない。論旨は、自独の見解に基づき原判決を非難するものであつて採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)